2022年3月
ラグビーは自由なスポーツで変化が常態
ラグビーで最も大切なこと。
ラグビーは制約の少ない自由なスポーツです。
ラグビーではボールを持っている選手に対してはルールで禁止されている危険なプレーでない限り前後、左右、どんな位置からでも、激しくタックルすることが可能です。
ボールを持っている選手はタッチラインの中であればボールを前にパスする以外はどんな動きをしてもかまいません。タックルを避けるために、パスをしても、キックをしても、後ろに向かって走っても、歩いても、飛び上がっても寝転がってもかまいません。
私は後ろに向かって走ってからトライをしたり、ボールを持って歩いて(相手を愚弄する様に歩いたのではありません)トライを導いたりしたことがあります。タックルを避けるために自分から寝転がったことはありませんが、タックルをしようとした相手に地面に伏せられてタックルを外されたことがあります。
後ろに向かって走ったのは高校2年生の時、京都の吉祥院グランドでのゲームで、右ウイングをしていて、味方陣22メートルライン辺りのラインアウトから敵のスタンドオフがキックしたボールをゴールポスト前5メートル位で受けました。
前を見ると相手が3人いて、私一人だったので、このまま前に走るとタックルをされボールを奪われるとトライされると思い、①キャリーバックにしようと思い味方のインゴールに逃げ込みました。
戦況は刻々と変化、最適のプレーもそれに応じて変わる。
タッチダウンしようと思ってふと見ると相手が1人しか追いかけて来ていなかったので、キャリーバックにするより②タッチキックにした方が良いと思ったのですがこの位置でタッチに蹴りだす自信が無かったので、いつでもタッチダウンできるように、そのまま真横にゴールラインと平行にインゴールの中をタッチ際まで走りました。
敵も味方も私がタッチに蹴りだすと思っていたので誰も動いていませんでした。そこでキックしようとすると追いかけて来ていた相手が1人だけで、前が空いていたので今度は③もっと前に出てキックしようと思い、インゴールから相手陣に向かって走ったら、④追いかけて来たのが一人だったので、そのまま相手のゴールまで走りトライしました。
私は1連のプレーで4個の選択をしました。最初は①で相手が3人私に向かってきたので真後ろに走りキャリーバックにすることを選びました。これはこの時点では最適の判断だと思います。インゴールでタッチダウンをしてキャリーバックにすれば5メートル離れた所で相手ボールのスクラムになります。
インゴールに走りこもうをする私を見た二人が走るのをやめました。それに気づいた私はタッチライン近くから外に蹴り出せば25メートルライン付近のタッチラインを超えた地点で相手ボールのラインアウトになるので、②タッチラインの近い所まで走りタッチキックをするの選択に変え、いつでもボールをタッチダウンができるようにゴールラインと平行にインゴールをタッチラインに向けて走りました。
追いかけてきた一人の選手も、私が蹴り出す選択をしたと思い、スピードを落としました。 相手選手がスピードを落としたことにより、私の前は誰もいなくなり、私はインゴールで蹴るより、、もっと前に出て蹴る方が良いと判断し、③今度はタッチラインと平行に前へ走りことにしました。
敵味方ほとんどの選手が私が蹴り出すだろうと思い、動いていなかったので、前がぽっかりて空いていて、これならトライができると思い、④蹴るのをやめてトライをするためにそのまままっすぐ走り、それを見た相手の選手が走り始めましたが、間に合わず、トライをすることが出来ました。
これは①から④と戦況が変化し、それぞれの場面で私が最適のプレーの選択を繰り返した結果で、①の段階でトライを狙ったら、相手の一人にタックルされて、一人がそのボールを拾い、もう一人にパスすることでトライをされていたことになったと思います。
この様に30人の選手が入り乱れるラグビーは数秒後には戦況は大きく変化します。その変化に柔軟に即座に対応することが必要です。
ラグビーには自由な発想が必要
ボールを持って歩いたのは大学2年の終わり、ニュージーランドに遠征した時です。
相手陣10メート ル付近で相手ボールのラインアウトのディフェンスで、受けた瞬間タックルに入ろうと思いきり飛び出した所、相手のセンターがノッコンしたボールが胸に飛び込んで来てすれ違いに相手のラインの裏側に出てしまいました。
前を見るとかなり先にフルバックが一人いただけで右が大きく空いていました。二つのオプションが頭に浮かびました。一つは自分でステップでかわしてトライをする、もう一つは多分フォローにくるであろうFWにパスをしてトライさせる。
自分でトライする自信はあったのですが、確実にフルバックをかわそうとすると少し手前でステップを切ることになるので、そのときトライは右隅になる。フルバックを私に引きつけてフォローしてくるであろうFWにトライをさせれば中央にトライできる。
FWにトライをさせようと決めた途端、突然歩くことが頭に浮かびました。その時、まだFWの選手がフォローしてくていることが確認できていなかったので、そのままフルバックに向かって全力で走り続けるとパスをする時に立ち止まってパスをしなくてはならず、全力で走って来る選手に立ち止まってパスをすると、緩いパスでも非常に強く感じてノッコンになる可能性が強いと思ったからです。
それで歩きながら後ろを見てフランカーが走って来ているのを確認し、そのフランカーがトップスピードで私のパスが真横で受けられるようになるのを確認し、トップスピードでフルバックの左側に向かって走り、フルバックを十分引きつけて右に来たフランカーにパスをし、フランカーがゴールポスト真下にトライしました。
普通、後ろに向かって走る、ボールを持って歩いて時間を稼ぐ、寝転がってタックルをかわす、等思い浮かびません。しかし、そうすることが最善のプレーであることが実際にある訳です。
この様に考えるとラグビーではプレーのオプションは自由なので、無数に考えられます。その無数のオプションの中から唯一無二のプレーを選び実践する訳です。
そしてボールがパスされることにより、次の人にそのオプションの選択はゆだねられます。
ラグビーは全て相対的なもので絶対的なものはありません。
音楽を例にとると音楽の楽譜は絶対的なものです。5線紙の上に書かれた音符はそれぞれが意味を持っていてそれは世界共通のものです。どの楽器でも、例えばピアノでもバイオリンでも音符の弾く位置、タイミングは全て決まっています。 1人で楽器を弾く分にはかまいませんが、オーケストラの様に多数で、色々な楽器で演奏する場合、1人でも楽譜と 違う音を出せば聞き苦しくなります。
音楽と違いラグビーの場合は楽譜の様な絶対的なものはありませんが、その局面局面に最高の、唯一無二のプレーが存在します。そのプレーを導きだす前提条件となるのはそのチームのゲームプラン(戦略)です。
よく「ボールを持ったら真直ぐ前に全力で走れ」とか良く言われますが、確かにこれは基本であり、これが良い時が多いですが、悪い時もある訳です。
ポジショニング、パス、ランニング、など全てにおいて、この位置に立つのが最適、この様にパスをするのが最適、この様に走るのが最適と言う様な絶対的のものはありません。
全てその局面と、相手と他のチームメイトとの相関関係で決まって来るものです。
例えば分かりやすい例で言うと、バックスのアタックラインを深いラインにするのか、浅いラインにするのかにより、それぞれのポジショニングや走るコース、パスのタイミング等は全く違ってきます。
最適のプレーを導き出すのはゲームプラン
最適のプレーを導き出すものはそのチームのゲームプラン(ゲーム戦略)です。
まず基本となる戦略(ゲームプラン)が必要でそのゲームプランが前提となり、最善のプレーを選ぶ方程式が決まってきます。
ゲーム戦略が明確になっていると、最善の選択も明確になってきます。そしてそれぞれの選手が最善の選択をして、それを実行出来る様に繰り返す練習が必要です。
そして重要なことはこの方程式をチーム全員が共有すると言うことです。例えばスクラムからアタックする場合、ハーフからスタンドオフへ、スタンドオフからインサイドセンターへとパスが回って行きますが、まずハーフがパスをする時にはバックス全員が何処で、どのように勝負するか分かっている必要があります。しかし、スタンドオフ、インサイドセンターとボールを回す段階で、相手のディフェンスの出方等で状況が想定と違って来る場合があるので、各段階で判断の修正が行われ、残りのメンバーがそれを瞬時に理解し、それに反応する必要があります。
ハーフがボールを持った段階の判断と、スタンドオフがボールを持った時の判断は違っているのが当然で、その違いを全員が理解している必要があります。
そのためには前提となるチームの戦略(ゲームプラン)、それから導きだされる方程式を共有しておかなければなりません。この判断力を日々の練習で築き上げると言う事です。
ラグビーは流動的でプレーのオプションがあまりに多様
最善、最適のプレーのオプションを選ぶ判断力は実戦で経験を積むことで高めることが一番良いのですが、ラグビーのゲームは非常に流動的であまりにもプレーのオプションが豊富なため、実戦で全く同じ様な場面に出会うことはあまりありません。
ラグビーのプレイは相手選手と自分のチームメートに相互に依存して、相互に影響してくるからです。
あるチームとの試合でうまく突破してうまくつなげた判断も、同じチームと次の試合で全く同じ様にプレーをしてもうまく行かない時の方が多くあります。当然相手は失敗に対して修正してくるし、自分のチームの隣の選手の動きも前回と少し違って来る可能性があります。
それぞれのプレーヤーの動きが少しの違うだけでも、実際のゲームでは全く違う場面の様に感じられます。
私がボールを持って歩いてトライを導いたのは生涯一度だけで、あの様な場面にはそれ以前もそれ以後も一度も出会っていません。
あの瞬間に歩くと言うオプションを選べることが出来たのはイメージトレーニングにあります。レベルが低い相手には突破すればそのままトライできます。しかしレベルの高い相手では必ずカバーディフェンスがあるので、自分でトライは出来ません。パスを次の選手につなげる必要があります。
イメージトレーニングが重要。
毎日の練習、ゲームが終わる度に自分のプレーを思い浮かべ、うまくつなげるにはどのようにすれば良かったのかイメージしていました。インサイドセンターで突破した場合、通常パスをつなげる相手はアウトサイドセンターになります。
浅いアタックラインを引いていても、インサイドセンターが突破して、アウトサイドセンターがディフェンスラインの裏に顔出すのには少し時間がかかります。
この顔を出すまでの時間をどうやって稼ぐかいろいろイメージしていました。横へ走ってカバーディフェンスとのコンタクトポイントをずらす、真直ぐ走ってタックルをされながら深い角度でパスをするなどです。
そのイメージトレーニングの中のオプションの一つとして自分のマークを外して時点でスピードを殺し、アウトサイドセンターが顔を出せる状態になってからスピードを出して真直ぐ前に走り、タックルされる寸前に真横にパスを通すと言うのがありました。
これはほぼ同じ様な場面で実際のゲームでも何度か実践したことがあります。
ニュージーランドで歩いたのは、インターセプトをすることになったのでフォローが大分時間がかかると思ったので、スピードを殺すだけでは駄目で、歩かないと時間が稼げないと思った訳です。
プレーの予測。
ラグビーの局面は常に非常に流動的で、ボールを持って一秒後には全く想像とは違った局面にぶつかります。自分以外の他の29人の動きを全て想定する事は不可能です。
しかし、自分の周囲数人の動きは想定しておく必要はあります。自分にパスをする選手、自分がボールを持ったらパスをする選手、それぞれのマークの敵の選手、敵のカバーディフェンスの選手(フルバック、フランカー等)、の動きです。
大学選手権に出て来る位のチームになると、FW、バックスともにほぼ一定のレベルのプレーは全て出来ると考えられます。と言う事はある程度の選手の動きの予測は可能だと言う事です。
例えば、アタックでインサイドセンターをしている時、自分の対面の動きは最初の立ち位置を確認した段階で、後は相手を見なくても、相手の走って来るコース等の予想はつきます。
なぜなら相手は私にタックルをしに来る訳で、私の動きに相手が合わせるので、私の動きとはあまり無関係な動きはしないからです。
相手ディフェンスの対面の選手が私の立っている位置より外側に立ち、私がスタートした後真直ぐ前に走ったら、私の外側から内側に向けてタックルに入りに来るので、走った時間、距離等でタックルポイントは予測できます。その予測した時間までは、相手を見る必要は無く、その他の選手の動きを見て最適のオプションを探します。
インサイドセンターで突破した場合、当然相手のカバーディフェンス(フランカーなど)が直ぐタックルに来るのは当然で、そのコースは事前に頭に入れておかなければなりません。そしてそのカバーディフェンスのタックルのコースに走り込む前に次にパスが出来るかどうか事前にイメージしておく必要があります。
そしてパスが出来る可能性が少ない場合には自分で突破するのを止めて、パスをする等次のオプションを選びます。
ラグビーにはこの予測と言う事が重要です。予測をすると言う事は、その時の相手、味方、自分の動きのイメージが出来上がっていると言う事です。このイメージなしに予測は出来ません。
予測ですから当然実際と違う事があります。その違いが何故起こったかを検証し、また新しいイメージを作り上げる事です。それを日々に練習で、また試合で実践する事でより正確なプレーの予測が可能になってきます。
想定するイメージの共有
イメージトレーニングの中でのプレーも実際のプレーと同様に、チームのゲームプランを基にしたものである事が重要です。そのためにはゲームプラン(戦略)の成文化が効果的です。
グランドでの口頭での指導にはイメージの共有に限界があります。
現在はインターネット、メール、ツイッター、フェースブック等コミュニケーションツールが格段の発達をしています。この様なツールを使い、イメージの共有を促進するのが効果的です
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