岡先生は冷静に論理的に戦略を考えておられましたが、その反面、独創的な発想のプレーに興味を持たれているようでした。
2年生の終わりの春休みにニュージーランドに遠征した時の試合で、インターセプトした直後に歩いて、フォローが来るのを待った時も、びっくりしたみたいです。
相手陣の10メートルライン付近の相手ボールのラインアウトで、インサイドセンターだった私は受けた瞬間にタックルに入るつもりで全力で飛び出しました。
相手のセンターがノックオンしたボールが私の胸に飛び込んできて、ボールを持ったまま、すれ違いで相手バックラインの裏側に出てしまいました。前を見るとフルバックの選手が一人だけでした。フォローの選手がまだきていないのではと思い、少し歩いてからフルバックに向かい、再び全力で走って真横にパスをして、フランカーがトライをしました。
後で岡先生の横で見ていた人から聞いたのですが、「浦野が歩いた。浦野が歩いた」と2度も言って、びっくりしていたとのことです。岡先生には後から「なんで歩いた?お前の足ならそのまま走ってトライができただろう?」
「瞬間、二つのオプションが浮かびました。一つは自分で走ってフルバックをかわしてトライする。この場合は右端のトライになる。もう一つはフォローに来るであろう味方のフランカーにパスをしてトライさせれば中央にトライできる。フランカーにトライをさせようと決めた時、二つのオプションが浮かびました。全力でそのまま走り、フルバックの直前に立ち止まって、フォローの選手にパスをする。歩いてフォローを確認した上で、その後、トップスピードで走り、フルバックの直前でフォローに来た選手に真横にパスをする。
フルバックの直前で止まってパスをすると、全力で走ってきた選手には緩いパスでも非常に強いパスに感じるので、歩いてフォローのフランカーの位置を確認し、少し時間を稼ぎ、トップスピードで走ってからフルバックの手前でパスをしました」
「ボールを受けた次の瞬間にそこまで考えたのか」と驚かれた様子でしたが、これは私がイメージトレーニングを毎日していたからです。
下の図は星名理論の極端に浅いアタックラインで突破する寸前の図ですが、相手のバックス全員、フォワードのフランカーとナンバーエイトの動きを図のように頭の中でイメージして、例えば、この赤のような地点で突破した時、相手のフルバックがもっと深い位置の場合はどのようなコースを走る、図のような位置の場合はどのようなコースを走るなど、いろいろなケースを考え、シミュレーションをしていました。
このようなケースの一つで外側のセンターがもっと深い位置で遅れた場合、私が全力で走るとフルバックにタックルされる前にパスができない可能性があるので、少しスピードを殺して、外側のセンターが顔を出せる位置になったらスピードを上げて走ってからパスをすると言うオプションを持っていました。
今回の場合、スピードを落とす程度では間に合わないと思ったので歩いてフランカーが真横でパスを受ける場所に来るまでの時間を稼いだものです。
このイメージトレーニングによるシミュレーションは高校時代から毎日していました。高校入学当時、初めてラグビーボールに触り、15人しかいない部員で、ただ一人、ポジションさえ決めてもらえない補欠の選手が、3年後に大学に入学して、前年日本一になったチームで1年生から試合に出してもらえるようになったのは、このイメージトレーニングにあります。
毎日イメージトレーニングを繰り返し、次の日の練習でそれを試して、さらに修正してイメージトレーニングをして、また次の日に練習で試すことを繰り返していたからです。
そして星名先生の極端に浅いアタックラインでこのオプションの種類が格段に増えたようです。